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青森地方裁判所 昭和29年(行)17号 判決

原告 鎌田逸郎

被告 青森県知事・国 外三名

主文

(一)  被告青森県知事が、別紙目録記載(一)、(二)、(三)の土地につき昭和二五年四月二二日附青森県報に公告してなした買収処分が無効であることを確認する。

(二)  被告国は、原告に対し、別紙目録記載(一)、(二)、(三)の土地につき、青森地方法務局八戸支局昭和二四年一二月一三日受付第三四二五号を以てした同二二年三月三一日自作農創設特別措置法(以下自創法という。)第三条の規定による買収を原因とする所有権取得登記の各抹消登記手続をせよ。

(三)  原告に対し、

(イ)  被告岩崎は、八戸市大字鮫町字林通四五番二号畑一反歩につき、右八戸支局昭和二七年八月一三日受付第八九七四号を以てした自創法第一六条の規定による売渡を原因とする所有権保存登記、

(ロ)  被告福村は、右同所四五番三号畑五畝歩につき右八戸支局昭和二七年八月一三日受付第八九七四号を以てした自創法第十六条の規定による売渡を原因とする所有権保存登記、

(ハ)  被告平は、右同所四五番一号畑一反五畝歩及び四五番四号畑三畝一〇歩につき、右八戸支局昭和二七年八月一三日受付第八九七四号を以てした自創法第一六条の規定による売渡を原因とする各所有権保存登記、

(ニ)  被告平は、右同所五三番一号畑六敏一七歩及び五三番二号畑三畝一〇歩につき、訴外平なかが、右八戸支局昭和二五年一一月一八日受付第四、七八六号を以てした自創法第一六条の規定による売渡を原因とする各所有権保存登記、

(ホ)  被告平は、右同所五一番畑四畝二〇歩につき、訴外平なかが、右八戸支局昭和二六年八月二六日受付第四七四六号を以てした自創法第一六条の規定による売渡を原因とする所有権取得登記

の各抹消登記手続をせよ。

(四)  訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

主文同旨の判決を求める。

第二請求の原因

(一)  別紙目録記載(一)、(三)の各土地は、昭和六年六月二三日、訴外高見末次郎から、また、別紙目録記載(二)の土地は昭和一三年二月一四日、訴外佐々木幸市から、いずれも、原告が買い受けて所有権を取得したものである。

(二)  訴外八戸市農業委員会(当時八戸市農地委員会)は、昭和二二年三月二八日、前項記載の各土地が自創法第三条第一項第一号に該当する農地であるとして、同年三月三一日を買収の時期とする買収計画を樹立し、被告知事は、右買収計画に基いて買収令書を発行したが、これを原告に交付することなく、令書の交付に代え昭和二十五年四月二二日附青森県報に公告して買収処分をなし、右買収を原因として、主文(二)掲記の各所有権取得登記がなされた。

(三)  ついで、別紙目録記載(一)の土地は、昭和二七年八月一三日、八戸市大字鮫町字林通四五番一号畑一反五畝歩、同番二号畑一反歩、同番三号畑五畝歩、同番四号畑三畝一〇歩に、別紙目録記載(二)の土地は、昭和二五年一一月一八日、右同所五三番一号畑六畝一七歩、同番二号畑三畝一〇歩に分筆せられた。

(四)  而して、昭和二二年三月三一日を売渡の時期として、自創法第一六条の規定に基き、前記四五番一号は被告平俊男に、四五番二号は被告岩崎チヨに、四五番三号は被告福村みどりに、四五番四号は被告平俊男に、五三番一号及び同番二号は訴外平なかに、別紙目録(三)記載の土地(分筆されていない。)は同じく右訴外人に各売り渡され、主文(三)掲記の各所有権移転(保存)登記がなされた。その後、訴外平なかは死亡し、被告平俊男が同人を相続し、右五三番一号、二号及び別紙目録(三)記載の土地を承継取得し、その旨の登記を経た。

(五)  しかしながら、右(二)に述べた被告青森県知事のなした買収処分は以下述べるような明白且つ重大なかしがあるから当然無効である。すなわち

(イ)  被告県知事は、本件買収処分をなすにあたり、自創法第九条第一項但書にいわゆる「農地の所有者が知れないとき、その他令書の交付をすることができないとき」に該当するとして原告に対し令書を交付せず、前述のように公告をなしたものである。しかしながら、原告は、未だかつて住所を不明にしたこともなければ令書の受領を拒否したこともない。その他令書の交付に代えて公告をなし得べき何等の事由も存在しなかつたのであるから、右公告は無効であるといわなければならない。

(ロ)  被告知事が、昭和二五年四月二二日附青森県報に掲載した公告(青森県告示第一五八号)を見るのに、「自創法第三条、第一五条、第四〇条の二の規定によつて左の各時期に買収した農地等の所有者が所在不明その他の理由で買収令書の交付が出来なかつたので同法第九条第一項但書の規定によつて令書の交付に代え次の通り公告する。」と記載し、その後に多数の農地等の所有者の氏名並に物件の表示(そのなかに原告の氏名及び本件土地の表示も含まれている。)が存するが、このような告示の方法では、買収物件各個について、いかなる自創法の規定を適用して買収したものか不明であるから右公告は無効である。

(ハ)  別紙目録記載(一)、(二)、(三)の土地は、登記簿上の地目は畑となつているけれども、現況は宅地である。すなわち、別紙目録記載(一)地上には、岩崎チヨ名義の住家六九坪二合五勺、倉庫一四坪、清水幸八名義の住家二七坪七合五勺及び木村繁太郎名義の住家二四坪五合が存在し、(二)地上には、平俊男名義の住家二七坪七合五勺及び物置七坪が存在し、(三)地上には、平松蔵名義の住家一三坪が存在している。而して右建物の敷地以外の部分は、魚類又は魚粕の乾燥場として使用せられ、かかる建物の存在及び土地使用の状況は本件買収の当時から現在まで変るところがない。

被告県知事は、かくのごとく、一見宅地であることの明白である本件土地を農地として買収したものである。

(六)  よつて、原告は、被告県知事に対し、前記買収処分の無効であることの確認を求めるものである。

而して、買収処分が無効である以上、これに基いてなされた前掲(四)記載の各農地売渡処分もまた当然無効であるといわなければならない。従つて、被告国、同岩崎、福村、平及び訴外平なか等において、本件土地につき所有権を取得する由なく、原告が依然としてその所有権を有するものといわなければならない。よつて被告国及び被告岩崎、福村、平等の受けた主文(二)、(三)記載の各所有権取得(保存)登記はいずれも無効の登記原因に基くものであるから、本訴において併せてその抹消登記手続の履行を求めるしだいである。

第三被告県知事及び被告国の答弁

(一)  原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求める。

(二)  原告主張の事実のうち、(一)ないし(四)は認める。

(三)  本件農地買収処分が無効であることは争う。右処分には、何らその無効を招来するようなかしがないものである。以下その理由を述べる。

(イ)  被告県知事は、本件各農地に対する買収計画に基き、昭和二二年三月三一日付青森いNo.三47買収令書を作成し、同年三月三一日から翌四月上旬頃までの間に、原告の住所地を管轄する岩手県知事に対し右令書を送附の上、原告に交付方依頼した。そこで、岩手県知事は、同年八月頃、右令書を盛岡地区農地委員会を通じて原告に交付しようとしたのであるが、当時右委員会における買収令書交付に関する事務は、つぎのようにして取扱われていた。すなわち、買収令書が発行されたときは、買収令書名宛人に対し、通常葉書に買収地の所在、地目、地積及び指定期間(既ね一箇月位である。)内に盛岡地区農地委員会事務所に出頭して買収令書を受領すべき旨の催告を記載した買収令書受領方通知書を送附し、指定期間を経過しても名宛人が受領の為出頭しないときは、更に、督促書(買収令書の受領なきため、事務に支障を来している旨及び猶予期間-ふつう一〇日間位の期間を定める-を経過しても受領のないときは、受領を拒否したものとして交付に代え公告する旨を記載する。)を送附し、それでもなお、受領されない場合には受領を拒否したものとして処理していた。当時大量の農地を短期間に解放することが要請されていたにかかわらず、買収令書を直接名宛人に送達して交付する方法によるときは、令書が到達したにかかわらずその受領書の返送されないことがしばしばあつたので事務に渋滞を来すことを避けるため右のような取扱によらざるをえなかつたのである。これは、ひとり盛岡地区委員会においてのみならず、全国各地において採用されていた処理方法であつて、当時の実情のしからしめるところやむをえなかつたものである。

本件令書の交付方の嘱託をうけた盛岡地区委員会は、昭和二二年八月頃、右取扱に則り、原告に対し、本件土地の所在、地目、地積及び一箇月内に盛岡地区農地委員会事務所において本件買収令書を受領すべき旨記載した買収令書受領方通知書を発送したが、原告は期間内に出頭しなかつた。そこで、更に、買収令書の受領がないため事務に支障を来している旨、受領に来ない場合には受領を拒否したものとして交付に代え公告する旨及び受領期間を更に一〇日延長する旨記載した督促書を原告に発送したが、原告は、ついに出頭しなかつた。盛岡地区委員会はやむなく、原告は受領を拒否したものとみなし、本件買収令書にその旨附箋し、同年一一月頃、岩手県知事に返還した。同知事は、更に、被告青森県知事に対し、本件令書を原告に交付することができない旨理由を具し返送したので、被告知事においては、自創法第九条第一項但書の規定により、昭和二五年四月二二日青森県告示第一五八号を以て青森県報に公告し、買収令書の交付に代えたのである。

(ロ)  本件土地は、買収当時畑であつて、宅地ではない。

本件各土地は、訴外平万太郎の妻平なかが、昭和一四年頃から原告から賃借し畑として耕作してきたものである。もつとも、後に分筆されて四五番二号となつた部分(畑一反歩)は昭和一九年頃被告岩崎チヨに転貸し爾来同被告が畑として使用してきた。その他の部分も、昭和二〇年頃から、右平なかの同居の長男である被告平俊男や、長女である被告福村みどりが事実上耕作してきた。

原告主張の本件地上所在の各建物はいずれも買収後はじめて建築されたのであるから、宅地であるという原告の主張は当らない。すなわち、岩崎チヨ名義の住宅(兼加工場)は昭和二六年五月頃、倉庫は同二八年三月頃、木村繁太郎名義の住家は昭和二八年五月二〇日頃、清水幸八名義の住家は昭和二七年七月頃、平松蔵名義の住家は昭和二七年頃、福村みどり名義の住家は昭和二九年頃、それぞれ建築せられたのである。ただし、分筆後五三番二号となつた畑三畝一〇歩地内に本件買収当時すでに平俊男名義の住宅二七坪七合五勺が存在していたことはこれを認める。

(四)  以上のような次第であつて、本件買収処分には、原告主張のような違法が存在しない。従つて、右買収処分の無効を前提とする登記抹消請求もまた理由がない。

よつて、原告の請求は失当である。

第四被告岩崎、福村、平の主張

(一)  本案前の答弁

(1)  本訴請求のうち、被告ら三名に対する部分を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求める。

(2)  被告等三名に対する原告の請求は、要するに、本件土地についてその所有権が原告に存することを前提とし、被告ら三名に対し所有権保存登記又は移転登記の各抹消を求めるものであつて、一般民事事件にほかならないのである。しかるに被告青森県知事に対する買収処分無効確認請求は一の行政事件であるから、これに一般民事事件を併合審理することは法律上許されないところに属する。されば、原告の本訴請求中被告ら三名に対する部分は、不適法として、却下を免れないものである。

(二)  本案に対する答弁

(1)  原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求める。

(2)  請求原因(一)の事実中、原告が、本件買収当時、別紙目録(一)、(三)の土地及び(二)の土地のうち分筆後五三番二号(三畝一〇歩)となつた部分を除く爾余の部分(すなわち五三番一号)につき所有権を有していたことは認める。五三番二号の部分は、昭和一三年頃から、被告平俊男の母なか(昭和二七年死亡)の所有に属していたものである。すなわち、

別紙目録(一)、(二)、(三)の土地は、原告の取得する前は、被告平俊男の父平万太郎の所有に属したものであるが、同訴外人が原告に対して負担する債務を担保するため、昭和六年六月二三日(一)、(三)の土地の、同一三年二月一四日(二)の土地の登記名義を原告に移転しておいたものである。右平万太郎は、昭和一三年一月二三日死亡したが、同人の妻平なかは、原告と交渉の結果、(二)の土地のうち三畝一〇歩(現五三番二号)については担保を解除して登記名義の返還を受けることとし、爾余の部分及び(一)、(三)の土地は原告に所有権を移転することとして異議なく引渡を了したが、更に、これを賃借の上引続き耕作してきたものである。

(3)  請求原因(二)、(三)、(四)の事実は認める。

(4)  本件買収処分が無効であることはこれを争う。

本件土地は、元来、全部畑地であつたが、昭和一五年頃、別紙目録記載(二)の土地の一部三畝一〇歩(現五三番二号)を被告平俊男の住宅の敷地としたほかは、同地上の一隅に馬小屋及び馬車小屋を建築した(現存せず。)のみで、その余を畑地として耕作し本件買収の当時にいたつた。

現在本件土地上に存在する被告岩崎チヨ所有の住宅兼加工場、倉庫、被告福村みどり所有の住宅、訴外木村繁太郎所有の住宅、訴外清水幸八所有の住宅、訴外平松蔵所有の住宅、訴外橋山某所有の倉庫等が、本件買収後昭和二三年一一月頃から同二九年頃にかけて建築せられたことは、被告県知事及び国の主張するところと既ね同一である。従つて、本件土地は原告の主張するように買収当時宅地であつたのではない。

仮に、前記五三番二号が被告平俊男の住宅の敷地として宅地であるとしても、右住宅は農業経営に欠くべからざるものであるから、その敷地をも含み全体として農地であるというを妨げない。

(5)  仮に、本件買収処分を無効であるとしても、前記五三番二号畑三畝一〇歩については、原告は、当初から所有権を取得したことがなく、かえつて、被告平俊男において、その母平なかからその所有権を承継取得したものであるから、主文(三)掲記の登記は、結局権利の現状に合致するものであり、その抹消を求める原告の請求は失当である。

第五証拠〈省略〉

理由

一  まず、被告福村、岩崎、平の本案前の抗弁について判断する。被告らは、原告の請求は、本件土地について、その所有権が原告に属することを前提とし、所有確保存(移転)登記の抹消を求めるものであつて、一般民事事件にほかならないところ、被告県知事に対する買収処分無効確認請求は、行政事件であるから、これに一般民事事件を併合審理することは許されないと主張する。

しかしながら、被告県知事に対する本件買収処分無効確認請求については、抗告訴訟に関する行政事件訴訟特例法第六条の規定を準用すべきところ、右法条にいわゆる関連請求事件として他の請求を併合審理するためには、該請求が前記買収処分無効確認請求と関連していることを以て足り、該請求が一般民事事件たる性質を有することは併合審理をするにつき何ら妨とならないと解すべきものである。本訴において被告知事に対する請求は、その他の被告らに対する請求に対し先決関係に立ち、その間に関連の存することは言をまたないから、右に述べたところにより被告らの本案前の抗弁は到底採用することができない。

二  別紙目録記載(一)、(二)、(三)の土地が、本件買収前原告の所有に属していたことは、被告知事及び国においてこれを認めるところであり、原告と被告平俊男との間においては、右目録記載(一)、(三)の各土地及び同(二)の土地のうち六畝一七歩(現五三番一号)が、本件買収前原告の所有に属していたことにつきこれまた争がない。

被告平俊男は、別紙目録記載(二)の土地のうち、三畝一七歩(現五三番二号)が原告の所有に属していたことを争い、その理由として、「本件各土地は、原告の取得前、すべて同被告の亡父万太郎の所有に属していたものであるが、同人の原告に対する債務を担保するため登記薄上の名義を原告に移転しておいた。万太郎の死後、被告の母なかが、原告と交渉の結果、右五三番二号を除き爾余の土地については、債務の弁済に代え、原告に所有権を移転し、右除外部分については担保を解除して登記名義の返還をうけることを約したのである。されば、右五三番二号は、いまだかつて原告の所有に帰したことがないのである。」と主張する。

しかしながら、その方式及び趣旨により真正に成立したと認める甲第一号証に原告本人訊問の結果を綜合すれば、別紙目録記載の各土地は、原告が、訴外亡平万太郎から買いうけてその所有権を取得し、おそくとも、昭和一三年二月一四日までに各土地につき所有権取得登記を経由したものであることが認められる。被告本人平俊男、同福村みどりは、各本人訊問において、本件土地のうち、右五三番二号三畝一〇歩は、原告から貰いうけたものである旨供述しているが、右各供述はにわかに信用することができず、他に前記認定を左右するに足る証拠は存在しない。

三  つぎに、訴外八戸市農業委員会(当時八戸市農地委員会)が、昭和二二年三月二八日、別紙目録記載各土地につき、自創法第三条第一項第一号に該当する農地であるとして、同年三月三一日を買収の時期とする買収計画を樹立し、被告知事は、右買収計画に基いて買収令書を発行したが、これを原告に交付することなく令書の交付に代え昭和二五年四月二二日附青森県報に公告して買収処分をなしたこと、右買収を原因として、被告国が右土地につき主文(二)掲記の各所有権取得登記を経由したこと、ついで、右各土地が、自創法第一六条の規定に基き、被告岩崎チヨ、同福村みどり、同平俊男、訴外平なかの四名に売り渡されたが、その際原告主張のとおり、別紙目録記載(一)、(二)の土地については分筆登記がなされ、右分筆後、右被告三名及び訴外人のため主文(三)掲記の各所有権移転(保存)登記がなされたこと、右平なかが死亡し、被告平俊男において五三番一号二号及び別紙目録(三)記載の土地を承継取得したとしてその旨登記を経たこと、以上の各事実は当事者間に争がない。

四  原告は、被告県知事のした本件買収処分には重大且つ明白なかしがあるから当然無効であると主張し、被告らはこれを争うから以下この点について判断する。

まず、原告は、「被告県知事は、本件買収処分に当り、自創法第九条第一項但書にいわゆる「農地の所有者が知れないとき、その他令書の交付をすることができないとき」に該当するとして、令書の交付に代えて公告をした。しかしながら、原告は、未だかつて、住所を不明にしたこともなければ令書の受領を拒否したこともない。その他令書の交付に代え公告をなし得べき何らの事由も存しなかつたのであるから、本件買収処分は無効である」と主張し、これに対し、被告知事及び国は、原告において本件令書の受領を拒否したのであるから令書の交付に代え公告するについて正当の事由があつたものであると抗争する。原告と被告県知事及び国との間において成立に争ない乙第一号証の一、二、その方式及び趣旨により真正に成立したものと認める同第三号証、証人岩根芳郎の証言並に岩手県知事に対する調査嘱託の結果を綜合すれば、被告青森県知事は、本件土地に対する前記買収計画に基き昭和二二年三月三一日附青森いNo.三47買収令書を発行し、その頃岩手県知事に対し、右令書を原告に交付すべきことを嘱託したこと、同知事においては、同年八月頃、更に、これを盛岡地区農地委員会に送付し原告に交付方依頼したこと、当時右委員会においては、買収令書を名宛人に交付するには、先ず、催告書(通常葉書に買収地の所在、地目、地積及び指定期間(概ね、一箇月位とする。)内に委員会事務所に出頭して買収令書を受領すべき旨の催告を記載する。)を郵送し、右期間を経過しても名宛人が受領の為出頭しないときは、更に、督促状(買収令書の受領のないため事務に支障を来している旨及び一〇日以内に受領しないときは受領を拒否したものとみなし交付に代え公告する旨記載する。)を送付し、なお出頭受領しないときは、令書の受領を拒否したものとみなして処理するのを一般の例としていたこと、本件買収令書は、同年一一月頃、受領を拒否されたものとして盛岡地区農地委員会から岩手県知事に返還され、まもなく、岩手県知事は、被告青森県知事に対し本件令書を原告に交付することができないとの理由で返送したこと、被告知事は、昭和二五年四月二二日、(前認定のとおり)、自創法第九条第一項但書の規定に該当するものとして青森県告示第一五八号を以て青森県報に公告したこと等の事実を認めるに充分である。しかしながら、岩手県知事から本件買収令書の交付方受領を受けた盛岡地区農地委員会において、右認定にかかる令書交付に関する一般の取扱に則り原告に対し、前述のような各内容を有する催告書及び督促状を発したとの点については証人岩根芳郎の証言は明確を欠き信用するに足らず、他にこれを認めるに足る証拠がなく、却つて、証人武蔵佐太郎の証言及び原告本人の訊問の結果に照せば、原告において令書受領の催告及び督促状の送付を受けていないことを認めるに足りる。しかのみならず、仮に、被告所論の令書受領催告書及び督促状が原告に到達したにかかわらず、原告において令書受領のため出頭することに応じなかつたとしても、これを以て買収令書の受領を拒否したとみなすことはゆるされない。けだし、国民は、かかる知事ないし農地委員会の催告に対し令書受領のためその指定の場所に出頭すべき義務を負うものではないからである。盛岡地区委員会における前記取扱が、当時の農地解放事務の実情から生み出されたものであることは首肯できるにしても、かかる取扱に被告主張のような効果を結び付けることはできないのである。

従つて、本件においては、原告が令書の受領を拒否したものということができず、その他原告に対し令書の交付をすることができなかつた事情の存することについては何ら主張立証がない。

しからば、本件においては、法定の要件を欠くにかかわらず、令書の交付に代えて公告をした違法があり、右違法は明白且つ重大なるかしであるから、本件買収処分は、原告主張の爾余の点について判断するまでもなく無効であるといわなければならない。

五  而して、本件買収処分が無効である以上、これに基いてなされた被告岩崎、福村、平及び訴外平なかに対する自創法第一六条の規定に基く前記売渡処分もまた当然無効であるといわなければならない。従つて、被告ら(知事を除く。)及び平なかにおいて、本件土地の所有権を取得する由がなく、原告が依然としてその所有権を有するものといわざるを得ない。よつて、被告ら(知事を除く。)及び訴外平なかの受けた主文(二)、(三)掲記の各所有権取得(保存)登記は、いずれも登記原因を欠き無効のものであるから、被告ら(知事を除く。但し、被告平俊男は、平なかに対し売り渡された部分につき同訴外人の相続人として)において、原告に対し、その抹消登記手続をなすべき義務があるといわなければならない。

六  被告平俊男は、前記五三番二号につき、平なかの有していた所有権を相続により承継取得したものであるから、原告が抹消を求める所有権保存登記は結局権利の現状に合致するものであり原告の請求は失当であると主張するが、右五三番二号を含め、別紙目録記載の土地がすべて原告に属していたものであることはさきに認定したとおりであるから被告平の主張は採用できない。

七  以上述べたとおりの次第であるから、原告の請求はすべて正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文の各規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中島誠二 宮本聖司 石川亮平)

(別紙省略)

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